今回お話を伺ったのは、福岡のアトリエで2022年からビスポークランジェリー『Uchida』を手がける筒井ユキさん。ビスポークってなんだろう、Uchidaの作るランジェリーはどんなものだろう、そんな純粋な好奇心から始まったインタビュー。ビスポークランジェリーは自分には縁遠いもの、などと感じている読者にこそ、ぜひ肩の力を抜いて覗いていってもらいたい。
レーベル「Uchida」のはじまり
──『Uchida』をスタートしたのは、ブランドのインスタグラムを拝見すると、2021年9月からですか?
2021年9月から無償でご要望に合わせたランジェリー を作らせてもらっていて、本格的に始動したのは、2022年の1月からです。「ブランド」というより、「レーベル」と捉えていただけると幸いです。
──レーベル、というと、ブランドとはまた違う概念ですか?
そうですね。こちらが提案をして一方通行になるようなものではなくしたいので、ブランドという言葉ではなく、レーベルという言葉を使っています。また、ランジェリーだけにこだわるというよりは、Uchidaの世界観を大事にしたいので、あまり「ランジェリーブランド」というイメージ付けをしたくないのもあります。
──ビスポークランジェリーをスタートしたきっかけは?
ビスポークという言葉には、「話をしながら作る」という意味合いがあります。人と人とのやり取りから生み出していくもの。それが私にはしっくりくるものがありました。
Uchidaを始める前にアパレルのセレクトショップに勤めていたのですが、お客さんとお話をして、その方としっかり関わり、その中で洋服を選ぶ作業がすごく好きでした。ただ販売をするのではなく、そこにあるモノは人と人を繋いでくれるものと考えています。なので、ランジェリーだけを販売するという手法はとりたくなくて。どちらかというと、人と会話をすること。私もその方からインスピレーションを受けますし、その方にとっても「一緒に作った」という楽しさだったり、買って満足、作って満足ではなく、対話を大事にしたいというところから、ビスポークランジェリーを選んでいます。
──なるほど。近しい言葉に「オーダーメイド」がありますが、単純に採寸してお客さんのサイズに合わせるような意味合いとは異なる印象がありますね。
埋もれているものを引っ張り上げたい
──ビスポークのスタイルを選んだとき、スタートがランジェリーだったのはなぜですか?
アート、建築、本、ライフスタイルに根付いているいろいろなものを追求したときに、ランジェリーに独特の感覚を得たことがきっかけです。
ランジェリーって、皆身につけているのに隠されていて、何か言ってはいけないタブーのようなものがあったり、その矛盾のようなものに魅力を感じました。隠されている、埋もれているものだなという感覚を得て、これからの発掘、発見が多そうと感じたのが始まりです。「何かに埋もれているものを引っ張り上げていきたい」という感覚と、ランジェリーとが結びついた感じです。
──確かに、その人がどんなランジェリーを身につけているのか、見た目からは分からないし、想像するしかない。普段はそんなに想像することもないですけども(笑)、不思議な世界ではありますよね。
楽しみかたも人によっては独特で、それぞれです。見せたい人もいれば、見せたくない人もいる。ありふれたものである割にはすごく色んな要素が混在している、不思議な世界に思います。なので、そういう意味では何をやっても“正解”に思います。そこに可能性を感じた分野だったというのは大きかったですね。
──ランジェリー作りについては、どのように学ばれたのですか?
SŒUR tokyo (スールトーキョー)のsakuraさんというデザイナーさんがいるのですが、その方の運営している sakura lingerie school というスクールで学びました。
──実際にレーベルを始めて、いろいろなお客さんとの対話を経て、ランジェリーのイメージなど変わってきた部分はありますか?
少しずつ変わっていった部分はあると思います。洋服のように捉えている方も多いということや、あと「皆本当は話したいんだな」という感覚ですね。皆、本当はランジェリーのお話したかったんだな、と。言っちゃいけないわけじゃないのは分かっているけれども、でも何となく「言っちゃいけない…んだよね?」と確認をしているかのような(笑)。
──たしかに…!女性同士でも「どんなのつけてるの?」って気軽に聞いちゃいけないような気がしてます(笑)。
皆、何かデリケートな部分に触れるようなことは感じているけれど、でも今日すごくかわいいのをつけているからしゃべりたい!、と思っていたり、洋服と同じで新しいの買ったんだよ、と言いたかったり。そういうふうに思っている人は少なくないのでは、ということは思いました。
Uchidaのものづくりとは
──ノンワイヤーブラ、ショーツで展開されているUchidaのビスポークランジェリーですが、色合いやデザインなど、個性的なものが多い印象です。これはUchidaのテイストというわけではなく、お客さまの要望に沿って作られたものですか?
そうですね、お客さまとのやり取りで生まれたことを形に残しているという感じです。私がまるっきりデザインするということはほぼないです。
ブラはノンパテッドか、パッド有りかはお客さまに選んでいただき、ショーツはタンガやフルバック、ブラジリアンぐらいのカッティングにするなど、お好みで選んでもらいます。
その上でのデザインは、雰囲気を聞きながら、こちらから構造面でどのようにできるかをサポートしていきます。「華奢に見せたい」「ちょっと強い感じ」などお客さまから出るワードを拾っていって、私がデザインを描いていき、そのなかで「ここもう少しこんな感じにできますか?」など具体的な要望も出てきたりもします。
ただ、元々は「おもちゃ箱みたいなもの作りたい」みたいな、そんなぼんやりしたワードから始まります。
──お客様との対話を通して作り上げていくビスポークランジェリー。印象に残っているものはありますか?
ちょっと変わった例としては、「ユキさんが思う私のイメージで作ったらどうなりますか?」という問いかけから、作っていったことがあります。
自然体で、透明感のある方というイメージが強かったので、朝焼けからインスピレーションを得たものを作りました。朝焼けは淡いブルーと、ピンクがかった紫の色合いで構成されている、その色合いをイメージして2色のチュールを重ねて。チュールは重なると見え方、光りかたが変わってきます。ナチュラルなその方のイメージに似合うように、形はシンプルなトライアングルブラにしました。
他に、タトゥーを日常では見えない場所に入れているお客さまのために作ったものもあります。そのタトゥーは、洋服を着ると隠れる場所にあるのですが、ブラジャーとも重なってしまう位置だったということを入れた後から気がついたそう。普通にブラをつけると、タトゥーがちょうど隠れてしまうんですね。
もともとそのお客さまの要望は全然違うものだったのですが、会話の中でタトゥーの話が出て、じゃあタトゥーの部分だけをくり抜いた形にしよう、ということになり、タトゥーがブラから覗くように窓を作った「Window Bra」というものを作りました。
──対話で生まれるインスピレーションを大切にする一方、ご自身がデザインのインスピレーションを受けているようなものは他にもありますか?
ありますね。先ほどお伝えしたような私が好きなもの、アートや、プロダクトデザイン、あとは古いもの、古道具や家具、合理的なデザインも民族的なデザインもどちらも好きですし、そういったものからインスパイアされることは多いです。
建築、アート本、いろんな方のZINEとか、著名な方ばかりのものではなく色んな人の作品を見ます。目にするものすべてが、自分のインスピレーションの源なのかなとは思います。それを全部ライフスタイルに変えてしまう感じですかね。
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双方向の会話を何より大切にしている「Uchida」。お話を伺ううち、ユキさんが作っているのはランジェリーありきではなく、ビスポークという表現そのものなのだと感じる。Uchidaの世界観をもっと知りたい、そんな探究心を抱かせてくれるのも、普段から対話を大事にするユキさんとのインタビューだったからなのだろう。続く後編では、ビスポークランジェリーのオーダーの流れや価格のお話、少し変わった「Uchida」という名前の由来についてもお聞きした。
special thanks
photo : Keishi Asayama
model : AYUU
hair make : ruru