これほどストレートに、日本の伝統美をランジェリーで表現したブランドがこれまでにあっただろうか?
2021年6月に突如現れた和ランジェリーブランド、N bijoux(エヌビジュー)。その煌びやかなブランドイメージからは意外なほど、「日本の繊維業界のために」という信念に真っ直ぐ向き合うお二人から、原点にある思いや、今後の展望についてお話を伺った。
「日本の繊維産業を残したい」という思いが原点
━━平石様はミスなでしこJapanの活動もしていらっしゃるのですね。日本の文化を伝える活動から、N bijoux(エヌビジュー)のブランド設立につながったのでしょうか?
N bijoux代表取締役 平石様(以下、敬称略):いえ、もともとはランジェリーの方が先です。N bijouxは、お着物の刺繍や和柄を取り入れたランジェリーを作っているのですが、最近では海外で生産された浴衣なども増えていたり、日本の伝統的なものでさえも海外で作られるという事実をとても悲しく思うことがありました。N bijouxのコンセプトには、「日本の繊維産業を守りたい」という思いがあります。
ミスなでしこJapanは「日本の伝統や文化を守っていく、美しき日本女性のコンテスト」ということで、応募してみたところファイナリストまで進ませていただき、色々な反響をいただきました。ミスなでしこを通して私のことを知ってくださったり、「日本の繊維産業を守りたい」という私の思いを知って売り場まで商品を買いにきてくださった方もいました。
平石:昔からものづくりに興味があり、日本の繊維産業が衰退していってしまったことを残念に思っていました。教科書に出てくるような有名な繊維工場も、今はただ大きな建物がガランとした様子で残されているだけで、悲しいものがありますよね。
工場の方からは、皆がとにかく「安く」「早く」作ろう、という考えになってきてしまうと、海外委託が進み、どうしようもないんだよね…と。世に出るものが、(海外で)安く作られ過ぎてしまっている、と感じています。それが本当のものづくりなのかな?と疑問もありました。
━━デザイナーの金山さまとの出会いはどのように?
平石:大学からの友人です。彼女(金山)は昔からすごくセンスがあって。大学3年ぐらいの頃から、「社会に出てしばらく経ったら起業したい、その時に一緒に何かできたら面白そうだね」という話をしていました。創業前は、私はマセラティやランボルギーニなどの高級車ブランドのマーケティングの仕事を、彼女(金山)は歯科助手の仕事をしていました。
ブランドのローンチは2021年6月ですが、2020年12月に会社を設立し、その1年前ぐらいから準備をしていました。ツテも資金も何もないところからのスタートでしたので、私は資金調達などの面を、金山は工場探しを。私は全然センスがないのですが(笑)、彼女は大学の頃からファッションのセンスがあるなあと思っていたので、デザインもお願いしています。
「和ランジェリー」でオンリーワンのブランド作り
━━なぜランジェリーを選んだのでしょうか?
N bijoux事業部長兼デザイナー 金山様(以下、敬称略):和柄のランジェリーが日本にはないな、と思ったからです。ランジェリーはもともと西洋の文化なので、レースがメインで使われています。でも、洋服には和の要素を取り入れたものがあるのに、なぜランジェリーには和のものがないんだろう?と疑問に感じていました。
日本の伝統的な柄などを活かしたランジェリーがあったら、和×ランジェリーの融合というところで、日本文化も含めて海外の方にも興味を持ってもらえるんじゃないかな、と。
金山:ブランド展開について、国内はもちろんですが、日本のものづくりという意味でも海外にアピールしていきたい気持ちがあります。日本のものづくりも負けていないぞ!と(笑)。
━━これまでなかったということは、作るのが難しいからどこもやっていなかった、ということもあるのではないかと思いますが、実際にやってみて、いかがですか?
金山:そうですね。N bijouxのランジェリーは和柄の刺繍が特徴なのですが、刺繍を作るには型が必要で、コストもかかります。現在N bijouxのブラは1~12のサイズ展開ですが、サイズによって刺繍の大きさを変える必要もありました。
素材についても、ランジェリーにはストレッチ性のあるものが使用されることが多いですが、そういった生地では刺繍がうまくいきません。最終的に、刺繍と相性の良いシルク100%の素材を採用しました。シルクは肌にとてもやさしく、お客さまにも喜んでいただけています。特に松屋銀座に出店してから、シルク100%のキャミソールをお探しのお客さまが一定数いることに気がつき、今後のアイテム展開として作れたらと思っています。
金山:シルクは扱いが難しい素材ですが、実はもともとシルクをあまり扱っていなかった工場さんで生産しています。それでもこんなに綺麗に仕上げていただいているのは、やはり工場さんの技術力だと思います。また、パタンナーさんが職人肌の本当に素晴らしい方で。やはりパタンナーとデザイナーが合わさらないと、良いものづくりはできないと思います。
ものづくりの背景を伝える
━━工場での生産工程をYouTubeで発信したり、といった活動もされていますよね。
平石:アパレル業界では、生産工場の名前などをブランド側では明らかにしないのが通例で、工場名を明かすというのは“ご法度”とも言われるのですが、私たちはむしろオープンにしています。そうでもしなければ、日本の工場は知られることもなく、どんどん潰れていってしまいます。
工場の様子を撮影してYouTubeで公開したりしているのも、ものづくりの背景や工程も含めてお届けしたいという思いからです。私たちの商品を売るためというより、日本の繊維産業を盛り上げるためにやっています。
━━現在20ほどの工場と取引があると拝見しました。たくさんの工場と協力しているのも、理由があるのでしょうか?
平石:そうですね。やはり、「繊維産業と共に」というコンセプトが一番にあり、日本のものづくりを盛り上げていきたいからです。お取引をすることで、その工場さんのことも紹介することができますし、そこから別のご縁が繋がったり、そういったことを今後も増やしていきたいと思っています。
例えばブラのパーツに使うメタルは、私たちはそこまで多く使うものではないのですが、紹介をすることで「こういうものづくりをしている工場さんが日本にあるんだ」、ということを知ってもらうだけでも良いと思っています。
工場で皆さんが作っている姿を見ると、もののありがたみもすごく感じられますよね。
金山:一つのものができるまでに、どれだけの人が関わっているのか。そういったことを知らないで当たり前に使って、当たり前に捨てて…ということをしていると、その背景を見たときにたくさんの人、たくさんの思いが繋がってこうしてものができているということにあらためて気がつきます。そうしたことをもっと知ってもらいたいな、という思いもあります。
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海外での大量生産、ファストファッションの流行。工場で働く方ですら「しょうがない」と口にする現状に対して、「日本の繊維産業を残したい」という思いをランジェリーブランドという形にしてきた平石さん、金山さんのお二人。
ブランドのリリースからたった一年ですでに20以上もの工場と協力体制を築いていることからも、彼女たちの信念の強さ、また多くの工場の思いも感じられる。続く後編では、気になる今後の展開についても話を伺った。