昨年、ユニクロが国内女性用下着でワコールを抜いて首位になったというニュースはランジェリー業界のプレーヤーはもちろん、ランジェリー好きな女性たちにとっても衝撃的なニュースだったかもしれません。
「とにかく楽なつけ心地で、価格が手頃なもの」。日本の女性たちは、今そんなムードなのかもしれません。
一方で、海外のランジェリーに目を向けるとまた違った面白さがあります。商品を購入するとき、ブランドの思想に共感するかどうかが大事な要素の一つになる北米。そこには自分のスタンスや主義を大事にする、アメリカ的な思想があります。
このコラムでは、そんな熱い北米のランジェリーブランドについて紹介していきます。
急速に変化する、北米のランジェリー業界
北米のランジェリーブランドといえば、ご存知、「ヴィクトリアズ・シークレット」。ランジェリー好きであれば、日本でも多くの人が一度は耳にしたことはあるブランドかと思います。
今も根強い人気のあるヴィクシーですが、ここ数年で初めて、北米では顕著なファン離れが起こりました。背景にあるのは、多様性をより重要視する世の中の声。「ボディ・ポジティブ」や「サイズインクルーシブ(包括性)」といった言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
スレンダーなスーパーモデルだけを起用し続け、そのド派手なショーで有名になったヴィクトリアズ・シークレットに対して、「美を画一化している」という批判が集まり、加えて重役の「トランスジェンダーのモデルは採用しない」といった発言が批判的に取り上げられるなど、時代に大きく乗り遅れてしまいました。
Embed from Getty Images一方、代わる新たなブランドが急速に注目を集め、北米のランジェリー業界は大きく変化しています。例えば、アメリカの歌姫リアーナが率いる「Savage X Fenty」。女性の多様性をリアーナならではの表現で世の中に発表し、今最も注目を集めるブランドの一つです。そのようなビッグブランドについては、また今度取り上げたいと思います。
今回ご紹介するのは、アメリカ・ニューヨークを拠点とする新しいブランドのひとつ、LaSetteです。
ニューヨークで魅せた!LaSette初のランウェイショー
筆者がLaSetteというブランドをはじめて知ったのは、同ブランドのランウェイショー動画を見たことがきっかけ。
LaSetteのランジェリーをまとい、堂々とランウェイを闊歩するモデルたちのカッコ良さ。女性を賞賛し、エンパワーメントするブランドアイデンティティーがショー全体に表現されています。動画でもこの迫力、きっとその場にいた観客を圧倒したショーだったのでは…と想像します。
LaSetteがブランドとしてランウェイショーを行ったのは、今回が初めて。NYFW(ニューヨークファッションウィーク)期間中に開催された、RUNWAY 7 FASHIONというショーの一部として披露されました。
*写真右 : LaSette 創設者・デザイナーの Shiara Robinson。
*写真左 : 今回のショーのコラボレイター、NYのアーティスト・ファションデザイナーの Kadeem Alphanso Fyffe。
LaSetteの代表的アイテム、スリップ
「シンプルだがベーシックではないアイテムが作りたかった」という、LaSetteの創設者でありデザイナーのShiara Robinson。ブランドを代表するアイテムの一つは、メッシュ素材でできたスリップです。
スリップというと、どちらかというとセクシーでフェミニンなイメージの強いアイテムですが、シンプルでカジュアルな素材でできたLaSetteのスリップは初めての人でも挑戦しやすい雰囲気。
伸縮性のあるメッシュ素材でできているスリップは、“身体を下着に合わせる”必要はなく、下着が着る人の身体のライン、動きに合わせてフィットします。
公式オンラインショップにはスリップの他、ストラップのデザインが特徴的なブラレットやショーツなど、ベーシックなカラーを貴重としたアイテムが並びます。
LaSette 公式ショップ:https://www.lasette.shop/
ブランドの精神を象徴するアイコニックな存在
LaSetteのデザイナー兼創設者であるShiara Robinsonは、同時に自らを"Lifelong Athlete(生涯のアスリート)"と名乗り、アディダスのランニングコミュニティのキャプテンとしても活動しています。
ケンタッキー大学で陸上選手だったロビンソン氏。卒業後ニューヨークに拠点を移し、ファッションに関わる多様なキャリアパスを経て、パーソンズ美術大学にてファッションデザイン課を修了。その後、LaSetteを立ち上げています。
卒業後直ちにニューヨークに向かったロビンソン氏は、当時のことを「仕事もなく、住む場所もない。ただ、今以上にベストなタイミングはないと思った」と語っています。(出典:Authority Magazine)アスリートとしての活動も続けながらLaSetteを率いる彼女は、その前向きでチャレンジングな生き方によって女性たちを勇気づける象徴的存在でもあるといえます。
LaSetteにとっての“ランジェリー”とは
LaSetteのブランド精神は、ランジェリーが誰のため、何のためであるのかという狭い価値観にこりかたまった社会や業界の中にある、という。
ランジェリーは長い間、セクシーでミステリアス、男性にとって秘められた幻想の世界であったかもしれません。しかしながら、LaSetteにとってランジェリーとは、会議室からベッドルームまで、着る人に自信を与え、勇気づけるためにあるもの。ランジェリーは、リアルな社会で生きる女性たちのためにあるといいます。
“男性のためにランジェリーを選ぶ”。あるいは“男性が女性のためにランジェリーを選ぶ”。
そのような特別なシーンで人々が夢を抱くランジェリーではなく、社会で生きるリアルな女性たちのためのランジェリーを目指している、LaSette。そんなブランドの在り方に、共感する女性も多いのではないでしょうか。
Embed from Getty Images挑戦を続けるLaSette、今後に期待
ブランド初のランウェイを成功させたLaSetteですが、Instagramでのフォロワーも約3,180人(2022年3月現在)と、まだまだ認知度の低いブランドです。
それもそのはず、デザイナーであり創設者のShiara Robinsonは、自己資金によるブランド運営にこだわってきました。2019年にブランドをスタートした後も資金調達を行わず、SNS広告などプロモーション手法にも消極的で、自身の信じる自然にファンを獲得していく方法で、コツコツとブランドを育ててきました。
しかし、ブランドの継続的な運営のために、直近ではクラウドファンディングによる資金集めなどにも挑戦しています。
ブランドとして新たなステージへと進もうとしている、LaSette。
アメリカの歌姫・リアーナによるSavage X Fentyや、世界的なインフルエンサー、キム・カーダシアンによるSKIMSといった新ブランドが急成長しているアメリカのランジェリー業界で、おなじく信念を持って突き進む1つの小さなランジェリーブランドが今後どのような飛躍を見せてくれるのか、注目したいところです。
***
コロナパンデミック以降、たくさんの人の生活が変化しました。自宅で過ごす時間が増え、自身と向き合う時間が増えたという人、家で過ごす時間や空間をより充実させたくなった、という人も。
まだ不安な状況が続く世の中ではありますが、「毎朝自分の好きな下着を身につける」という単純な行為が、より多くの女性の幸せにつながったならば、と願います。