前編では、Uchidaのスタートや、お客さまとの対話を中心にしたUchidaのものづくりについてお伺いした。後編となる今回は、実際にオーダーした場合の価格や製作の流れと、「Uchida」というレーベル名のちょっと変わった背景について。最後に、ビスポークという表現そのものに独自の感覚を持つUchidaの、レーベルとしての今後についても伺った。
製作のスタートは初回のミーティング
──価格や製作の流れについて教えてもらえますか?
今後変更する可能性はあるのですが、現状のメニューは2つです。
1つはブラショーツ上下のセットで2万円、もう1つがボディスーツで3万円。これは一律価格で、デザインによって変わることはないのですが、生地によってアップチャージがある形です。
生地の性質はブラに合うもの・合わないものがあるのでUchidaが用意しているものから選んでいただく形になるのですが、色に関してはすごくたくさんあるので、Uchidaで用意しているもの以外のカラーを取り寄せる場合に、追加で3千円のアップチャージをいただいています。カラーは皆さんすごく悩まれますね。
初回の打ち合わせをして、MEETINGの日から1週間以内にデザインを確定します。そこから起算して、1ヶ月の製作期間をいただく形です。ボディの方は、製作期間を2ヶ月いただいています。
──お客さまはどんなシーンで身につけているのでしょうか?
Uchidaのお客さまは、ファッションに組み合わせられる方が圧倒的に多いです。例えば、ゲージの大きいニットの下に見えてかわいいブラにしたり。あるいは首もとが少し開いているお洋服の際に、見えてかわいいアクセサリーのような、チョーカーのようなデザインにしたり。
洋服の次に、ランジェリーは個性を出せるポイントになってきているという部分も大きいのかもしれないですね。
形として残すだけでなく、それまでの過程を大切に
──製作の過程で大切にしている部分は?
やはり、しっかりお話をすることは大切にしています。一方通行にならないようにすることですね。会話のキャッチボールが軸なので、ランジェリーとは関係ないことも話したりします、例えば、「最近仕事どう?」とか(笑)。
美容院やネイルサロンでの会話を想像してもらったら分かりやすいかと思います。「最近この美術館行ってすごく良かったんですよ」といった情報交換もあったりしますが、そういう会話の中でお客さまの気分や、好みのテイストが分かってくることもあります。
その過程で、ランジェリーとぴたっと合う点や、何かスパークするような感覚を大事にしています。そこからやっと、ランジェリーというものになるという感じです。なので、カタチとして残るものとしてはランジェリーですが、それまでの過程で生まれるものを大切にしています。
──お話を聞いていて、ビスポークランジェリー、想像していたよりももっと気軽にチャレンジしても良いのかな、と思いました。男性はオーダーメイドのスーツを作ったことがある人も一定数いるかもしれないですが、女性はお洋服を仕立ててもらう機会も少ないと思うので、先入観でハードルが高いイメージを持っていたんですよね。
私の場合は、「ネイルをするように来てください」と言っています。ネイルもデザインを持ち込んだりしますよね、それと同じような感覚で。
──初回の打ち合わせのあと、製作から商品をお渡しするまでに大切なことはありますか?
1ヶ月の製作期間をいただいた後、「FITTING」を行います。初めのMEETINGと同様に、来られる方はアトリエに直接お越しいただき、遠方の方はzoomを利用して行います。zoomの場合は事前に完成したものを発送して、手元に商品がある状態でFITTINGを行います。
フィッティングでは何をするかというと、イメージ通りになっているかの確認もですが、ファッションとして楽しむランジェリーを作られる方が多いので、着脱方法が少し複雑になったりします。せっかく自分の気にいるもの、かわいいものができたとしても着てもらえないと意味がないので、そこをサポートして身につけることへのハードルを下げることと、お手入れの方法についてもお知らせします。
渡して終わり、というふうにはしたくないので、アフターケアといった意味合いも含めて行なっています。
──通常のFITTINGでイメージする、サイズの確認だけでなく、実際に使ってもらうことやその後のことまでを大切にされているのですね。
レーベル名は自分のアイコンとして
──『Uchida』というレーベル名の由来を教えてもらえますか?
わたしの名刺代わりになる名前だから、です。本名ではないのですが、ニックネームのような感じで、人から「うっちー」と呼ばれていたのが始まりで。
専門学生時代にアルバイトをしていたのが、ゲストハウスとバーという、ちょっとおもしろい組み合わせの場所だったのですが。そこのマネージャーさんが、顔が「ウチダ」が合っているからと(笑)。それがありがたいことに?定着して、ウチダというのが私のアイコンのようになっていったんです。他のアルバイトも皆、本名では呼ばれていないような場所でしたね(笑)。
──そのニックネームが、レーベル名にもなってしまったという(!)。
ウチダという名前になってから、自分が飛躍できたような気がするというか、その頃から今の自分になってきているような感覚が強かったので。縁起が良いというとちょっと宗教的すぎますが、自分のアイコンとして、レーベルの名前にしました。
──「今の自分」になってきた、ということの意味は?
特にコンプレックスのようなものがあったわけではないのですが、ウチダになってからのほうが、何かたかが外れたように、自由に、後先考えずに飛び込める大胆さを身につけた感じです。頭で考えるよりも心に素直に動くというか、そういうふうになってきたのが、ちょうどその頃からでした。そうすると、なぜかいろんなことがうまくいくようになったというか、良いつながりが欲しいときにできるようになっていった気がします。
レーベルUchidaのこれから
──インタビューの前にUchidaのnoteを見て、表現としての言葉や、アート的な感覚を大切にされている方なのかなと想像していました。独特の感覚は、以前からあるものですか?
noteに書いていることは、特に飾っていないというか、素の私なので、昔からある感覚なのだと思います。noteも一つ、ランジェリーとおなじで、私の中にあるものを言葉にしている媒体ですね。
──ランジェリーだけでなく、レーベルとしていろいろやっていきたいというお話もありましたが、今何か考えていらっしゃることはありますか?
noteで書いている文章もそうですが、ランジェリー、自分の考えかた、感じたもの、感覚、そういったものを織り交ぜた展示だったり、空間を作り上げてみたいな、ということは考えたりしています。
最終的な形として残っているのがランジェリーで、それが私のやっていることの中でいちばん分かりやすい部分ではあるのですが、その背景には、私のいろいろな部分や、お客さまから受け取るいろいろなものがあるので。ランジェリーというものだけでなく、その背景の部分をもう少し伝えることができたら、Uchidaのランジェリーがなぜこういうやり方になっているのか、ビスポークってなんだろう?という疑問なども解消されるかな、という思いもあったりします。
「知らない」から「選べる」、そして「手に取れる」環境に
──最近は日本でも新しいランジェリーブランドが増えていますし、ビスポークランジェリーも含め、もっと多くの女性がランジェリーを楽しんでくれたら良いなと思うのですが、何かそういった状況について思うことはありますか?
知らないことが多いんじゃないかな、と思います。子どもの頃、母親と一緒にブラジャーを買いに行って、デパートの婦人服売り場で子ども用のブラジャーから入って。子どもの頃は親に選んでもらっていたり、自分で好きなものを選ぶ、ということが洋服以上に少なかったと思いますし。
そうすると大人になってからも、ランジェリーショップというよりは、ランジェリー買うにはここかここしかない、という頭になっていたり。
ファッションにランジェリーを取り入れて楽しんでいるような方が親の世代になっていくと、その子どもの世代もランジェリーというものにもっと自由に入っていけると思いますし、そういったときに豊富なアイテムが手に取りやすい環境が整っていけば、もっと自由にランジェリーで表現をし始めるのではないかなと思います。
結局、選べるのに、選べるものを知らないから選べていない、ということなんじゃないかな、と、その辺がどんどんオープンになっていけばいいなと思います。
「ネイルをするように」。そのポップな言葉が、「気軽にランジェリーを楽しみたい」という私たちの気分にぴったり寄り添ってくれる。
他人の知らないところで、密かに自分の新たな一面を探求する。洋服やメイクのように、外から分かりやすいものではないけれど、自身の中で何かがたしかに変化する感覚がランジェリーにはある。ビスポークランジェリーでは、そのプロセスをより楽しむことができそうだ。
special thanks
photo : Keishi Asayama
model : AYUU
hair make : ruru