SNS、ブランドへの愛着、サステナビリティ。ファッションに関する価値観
━━Z世代の一人として、何か共通する価値観みたいなものはあると思いますか?
あまり普段、Z世代っぽいね、などと言われることはないですが(笑)。Z世代というのをネットで調べると、割と当てはまる部分はあるのかなとは思います。
ファッションに関して、ブランドに縛られていない、というのはあるかもしれません。自分がかわいいと思ったものを買う、買う際には他の人の着こなしなどをインスタでリサーチします。好きなブランドが出しているものであれば何でも買う、という感覚はあまりないですね。
━━デザイン以外の部分、エシカルやサステナブルなどを気にしてファッションを選ぶことはありますか?
同じ世代の子たちが皆そこまで考えているとは思わないですが、自分たちがこれから生きていく世界が、そういった問題に左右されると思うと、やはり私は気になっています。
服を作る側として思うのは、例えば、リサイクルのポリエステルを使った生地などはバリエーションが少なく、Liloseのような規模のブランドだと新しく生地を作ることが難しかったりします。なのであるものから選ぶしかないのですが、ではリサイクルや環境にやさしい生地のバリエーションが増えるには、消費者として自分たちがまずそういったリサイクル素材を使った商品を購入する。そうすると、大手企業がリサイクル素材をもっと生産するようになるかもしれません。そうして、小規模のブランドでもリサイクル素材のバリエーションが増えてもっと使いやすくなります。なので、商品を購入する際にはそういった環境に配慮したものを買おう、などと考えるようになりました。
YouTubeでも発信。ジェンダー問題に取り組む理由
私自身、フリフリのかわいらしいデザインが苦手だったりするのですが、こういうものが女性らしい、と決められてしまうのはちょっと違うな、と思います。「私の友人に、スポーツをやっていてボーイッシュなスタイルの女性がいるのですが、男っぽくなりたいと思ってやっているわけではなく、女性としてそういうスタイルが好きだからやっているだけですよね。それを、この人は「男っぽい」、これは「女性らしくない」などと判断されてしまうのはなんだか嫌だな、と思います。
━━ジェンダーの平等について、YouTubeでも発信されているのを拝見しました。ジェンダーの問題を考えるようになったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?
ランジェリーファッションは露出が多いというイメージであったり、危ない、性犯罪に遭ってしまうんじゃないか、などと懸念されることがあるのかなと思い、自分なりに調べてみたことがきっかけです。
痴漢や露出狂の被害に遭う人というのは実際すごく多くて、私自身や私の身の周りでも、誰でも被害に遭うことがあります。
それが当たり前というか、特別なことではなくどこかしょうがないことのように思っていた部分があったのですが、被害に遭った側は悔しいし、怒りや、何もできなかった後悔などずっと傷が残ります。それなのに、被害者に対して「そんな格好をする方が悪いんだ」というような人が一定数いたりする。本当に関係あるのかな?という疑問があり、ランジェリーファッションを提案する者として知っておきたいなと思いました。
警視庁などが出している情報を調べたり、性犯罪の心理学の論文を読んでみたりして分かったのは、一つはどんな服装の人でも被害に遭っているということ、もう一つは加害者の中には自分の男性性の自信のなさを補完するために女性に危害を加える、という人たちがいるということ。背景には、男性はこうでなければならない、男性は女性より上でなければならない、などといった認識が関係していることもあるそうです。
例えば、仕事で女性に怒られた、というだけで、なぜ自分が怒られなければならないんだ、という気持ちになり、そういう性犯罪を犯してしまう、といったことです。
なので、そもそもジェンダーが平等になれば、性犯罪も減っていくんじゃないかな、と思いますし、好きなファッションを思いっきり楽しめるようになるのではないか、と。そういう世の中になってほしいなという思いで、女性のエンパワーメントやジェンダー平等について発信しています。
ブランドとして、SNSを通して発信していくこと
SNSを頑張ろう、という感覚はなく、やるのが当たり前という感覚です。Instagramはいちばん使いますね、TikTokはあまり…特にInstagramのリール機能ができてからはあまり使わないです。
先ほどのジェンダーの問題についても、現時点で私にできるのはSNSなどで発信していくことですが、将来的には何かそういった問題に対して、ブランドとして取り組みができたら良いなと思っています。
まずは現状を知るということが私にとっては大きなことだったので、同じように考えてくれる人が増えるといいなと思います。知らずに、しょうがない、当たり前と思ってしまうのではなく、それはおかしいことだと気づくこと、女性だけでなく男性にも知ってもらえたらと思いますし、発信は続けていきたいですね。
Z世代と一括りにした際に言われる部分かもしれませんが、政治に興味がない、どうせ変わらないでしょ、と思っている人も多いのかなという気はします。私が発信していくことによって、同世代にも知ってもらえるきっかけになったら良いなと思っています。
━━ジェンダーに対する問題意識というのは、ランジェリーファッションを提案する上で自然と考えるようになったのでしょうか?
そうですね。それと、以前から「女性は家に入る」というような考えにあまり納得できない気持ちがあり、そういう考えは昔から持っていました。
自身の理想としては、仕事をやりながら家庭を持ちたいというのはありますが、現状ではそれを達成するのはなかなか難しいなと思っていて、例えば、選択的夫婦別姓制度が導入されてほしいと思っていたりします。
ジェンダーの平等というのが実現されていかないと、自身の理想の状態にならないと思っているので、そういう意味では自分ゴトだからこそ、取り組んでいける部分もあると思います。
ファッション・ランジェリーを楽しむ人に年齢は関係ない
━━Liloseのデザインのこだわりはどのような部分ですか?
一見シンプルだけど、さりげないデザイン性があるものが好きなので、そのようなデザインにこだわりはあります。例えばこのブラウスについても、ギャザー部分や、袖のバックルデザインなど。やりすぎな感じ、エッジが効きすぎているものは私のイメージとは違うのですが、ただのシンプルにもならないデザインにしています。
もともとランジェリーやファッションについて、もっとこういうのがあったら良いのにな、と思うことが多かったので、それなら自分で作ってしまおう!と(笑)。
━━どんな人に着てほしい、などはありますか?
ファッションとして、年齢で区切りたくないな、と思っています。ランジェリーを楽しんでいる人というのは、年代は関係なく好きなものを着ているというイメージが強いです。なので、「私は何歳だから着れない」といった考えではなく、何歳になってもこういうものを着たいな、と思ってもらえるようなものを作っていきたいなと思っています。
━━新作は、どのようなランジェリーファッションの提案をされていくのですか?
背中が大きく開いているのでニット地の洋服と、そこに合わせられるボディスーツを作っています。また、前が開いている洋服に合わせられる見せられるブラなど。
見せるランジェリーや、ランジェリーファッションについては、前職で働いている際にもお客様から求められたり、少しづつ浸透してきているのかな、という気がします。
ランジェリーを楽しむ文化というのは、日本では歴史的にもまだ浅いですが、少しずつオープンに楽しめるようになっていき、それが女性のエンパワーメントにもつながっていったらと思います。
━━2022年2月にブランド初のポップアップストアを広尾で開催されましたが、手ごたえや感想はありますか?
今回のPOPUP STOREは初めて実際に商品を見てもらえる機会でした。今までオンラインのみでしたので、商品作りに対して不安に思うことをありましたが、実際に手に取ってもらってデザインや着心地を気に入ってもらう事ができ、自信が持てました。今後も定期的に開催出来たら良いなと思っています。
いつか自分が中高生のときに欲しかったランジェリーを
━━今後の目標について、教えていただけますか?
まだ始めただけで、何も達成できていないので、「ブランドを続けていくこと」がいちばんです。その後、次のステップに進めるときがきたら、大きな目標としては低価格帯のランジェリーの幅を広げたいな、というのがあります。
私自身、中学・高校時代、フリフリなものやリボンの下着のデザインがあまり好みではなく、下着をあまり好きと思えなかったことがありました。その年代で買えるような価格の下着は選択肢が限られていたので、当時はフリフリのデザインでも黒の方がまだマシかなと、黒い下着ばかり着ていました。
なので、私のようにかわいらしいものが苦手な中高生でも買えるようなデザインで、低価格帯のランジェリー、Liloseとは別ラインとして中高生向けのブランドを作るというのが次の目標です。といっても、低価格帯のランジェリーを作るには費用もかかりますし簡単なことではないので、いつか実現できたら良いな、という夢ですね。
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SNSで自らの考えを発信する、25歳のランジェリーファッションデザイナー。
画面越しに見る彼女は、スマホネイティブ、環境問題や社会問題にも関心が強いと言われる“Z世代”ならではの感覚で自身のスタイルを提案する、キラキラした若者という印象であった。インタビューを終えて、そのイメージは「Z世代の若者の一人」ではなく、歩み始めたばかりの一人のデザイナーのリアルな姿として印象に残った。
「実際にモノを見てもらった方が自信はある」と話す、道美さんのつくるランジェリーは世代を超えて多くの女性の心を掴むに違いない。