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Baby Doll Tokyo原宿店での20年間と、コルセットとの出会い。輝くファッションの業界の裏での成功と苦労/緑川ミラノ氏インタビュー(中編)

TEXT / INTERVIEW / うめ組ランジェリー
DIRECTION / LINGERISTA編集部

本格的なコルセットとの出会いが緑川ミラノの運命を変えた。
2000年からBaby Doll Tokyoを主催する、緑川ミラノさん。ファンを魅了し続けるその世界観について、前編ではその“原点”とも言えるお話を伺った。「ゾクゾクするもの」に惹きつけられた子ども時代から、思春期の衝撃的な思い出、ミラノさんの母親像、そして上京後、華やかな世界で見たたくさんの美しいものや自立してかっこいい人たち。
中編となる今回はいよいよ、Baby Doll Tokyo原宿での20年間について。お店のスタートから、ロサンゼルスでの運命的な出会い。お店の中だけにとどまらず、たくさんのファンを巻き込み、魅了したイベント。聞いているだけで目が回りそうな20年間について、ミラノさんが語ってくれた言葉とは━━。

「無」だからこそできたBaby Doll Tokyoの出店

地元岡山のアパレル業界の師匠が東京にお店を出したいということで、私の先輩とお店をやる予定だったんです。ところが、その先輩が病気でできなくなってしまって。そこで私に話が回ってきたんですが、お話しをいただいて後先考えずにすぐに「やりたい!」と言ってしまいました。それが20歳ぐらいの時です。真っ黒い魔女が住んでいそうなお店見てみたい。勢いだけ・・・というか何も考えていなかったですね(笑)。

まだBaby Doll Tokyoができる前、「デパートメントH」というイベントで、ゴッホ今泉さんという方に大変お世話になり、自分が集めた小物のブースを出させてもらっていました。そのブースに毎月お客様がたくさん来てくれて、商品もよく売れていた。それをキッカケに少し自信もつき そろそろお店を出しても大丈夫かな、と思ったのもあります。

その後、22歳の間近にBaby Doll Tokyoのお店をオープンしました。

フランス貴族が装着していた本格的なコルセットとの出会い

━原宿でお店をやっていく中で、特に印象に残っているのはどんなことですか? 

やはり本物のコルセットとの出会いが後々の人生を変えました。

初めはインポート・ランジェリー全般を扱うぐらいに考えていたのですが、市場調査と商品の仕入れのために『MAGIC(マジック)』というラスベガスでやっている大きな展示会へ行ったときに、何かお店の目玉商品になるものはないか…と師匠と歩いていると、そこに15センチくらいのピンヒールにパウダーピンク色のコルセットからバストがこぼれそうになっているすごく目立つ格好をした女性が歩いていたんです。思わず「うわあ!見つけた!!」と、すごくかっこいいと思って追いかけました。

その人がアントワネットさんという、コルセットを作っている方でした。トランプの柄にもなったような全米のアンダーカルチャーの中ですごく有名な女王様。そこで知り合いになりコルセットをオーダーすることになりました。

海外のコルセットはなかなか日本人に合うサイズがなくて、腰は閉まるけれど胸があいてしまうなど、当時の私でもぶかぶかでした。別注でできますか?と尋ねたところ、できるわよと、アトリエにいらっしゃいと言ってもらいました。

キャプション)展示場でも一際目立っていたという、当時のアントワネットさん。

彼女のアトリエは私たちのアトリエから車で1時間ぐらい。オレンジカウンティという場所にありました。そこでコルセット作りをしていて、縫製工場も全部見せてもらいました。アメリカはサイズが「インチ」なので、最初は「センチ」で指示して間違えてしまったり、英語ができない私が英語で指示書を書くことになり、日本のファッション用語辞典にはコルセットやランジェリーの専門用語がなく、インターネットもない時代なのでデザイン画を描きFAXでのやりとり。この場所の名称は?など細々した行き違いを埋めていくのが思った以上に大変で苦労しました。電話代にビックリしたのも思い出のひとつ(笑)。日本人の体形に合ったコルセットを必ず作る!!と情熱でがむしゃらに勉強して英語でオーダーできるようになり、現場の方に教えていただきながら作り方や歴史も知れた時期でした。

━運命的な出会いから、コルセット作りに繋がったのですね。

そうですね。元々私は、マドンナが大好きで衣装のジャンポール・ゴルチエや、「ベルサイユのばら」のマリー・アントワネットなど、コルセットという存在がすごく気になっていたので、ラスベガスでの彼女との出会いで、私が求めていたものは「これだ!」とピンと来たのだと思います。

日本のフェティッシュ文化とコルセット

━当時、コルセットやフェティッシュ文化というのは、日本ではあまりなかったのでは?

AZZLO(アズロ)という伝説のお店がありました。

そのショップのアイコンの方々が芝浦ゴールド*という場所でとてもFETISHでかっこいいイベントをやっていたりしました。コルセット一色というよりは、ラバー、レザーの拘束具などファッション化したようなロンドン・スタイルのフェティッシュ嗜好ですね。危険な大人の香りがする触れたいけど触れてはいけない・・・そんなムードが素敵なお店でした。

*芝浦GOLD:1989年(平成元年)に誕生した7階建ての巨大ディスコ。SMショーやゲイナイト、アニメキャラを模したコスプレ大会、女装子のドラッグクイーンコンテストなどさまざまなイベントが行われていた。

その時代もフェティッシュカルチャーの中に「コルセット」もありましたが、ファッションというより、アダルトグッズに近い扱いだったんです。変な話、AVのDVD、おしゃれ感ナシのバイブレーター、アダルトグッズの間に、コルセットが置かれていたりする。それは私の表現したいイメージとは違いました。

私はあくまでもファッションというか・・・。宝石箱にしまう感覚。自分の宝物、綺麗なものとしてきちんと扱いたかった。なので、お店に置くセレクト商品も直接的なSEXを連想させてしまうモノは避けて、その醸し出すムード、ビジュアルが下品になりすぎないギリギリのラインで選んでいました。

インタビューを受けるBaby Doll Tokyoの緑川ミラノ氏
インタビューを受けるBaby Doll Tokyoの緑川ミラノ氏

「恐怖美術館」からインスピレーションを得たBaby Doll Tokyo

Baby Doll Tokyoのお店に並ぶ商品やお店の雰囲気は、『黒蜥蜴(くろとかげ)』の小説の中に出てくる、「恐怖美術館」というシーンから大きなイメージをもらっています。

もちろん小説なので実際に見たわけではなく、言葉からイメージしているものですが、私が緑川夫人だったらと勝手に楽しく想像して、イメージしています。和洋折衷で、赤と黒で…というような。

━日本でファッションとしてコルセットを扱うようになったのは、Baby Doll Tokyoが最初だったのでしょうか?

取材などでもいろんな方からそう言われたので、恐らくですが、そうなのかなと。アダルトグッズではなく、原宿であくまで一つのファッションとしてアピールしたのは、Baby Doll Tokyoが初めてだったのではないかなと思います。原宿にお店を出したのもやはりこだわりはありました。六本木や新宿、銀座などではなく、絶対にこの街だ、と。

コルセットを身に纏うことは、色気を身に纏うこと。

━コルセットを作っていて、いちばんうれしい瞬間というのはどんなときですか?

こういうのが欲しい、こういう風になりたい、と思って来てくださったお客さまが、お店で試着をすると、皆さん悲鳴をあげるんです。「かわいい〜」とか「すご〜い」とかじゃないんです。感激して「ひゃ〜!!!」と悲鳴をあげる。それはやっぱりとても嬉しいですね。

スニーカーとかで来られた方も、コルセットを締めた途端、ずかずか歩かずに、足を閉じます。老若男女問わず(笑)。そしていつもと少し違う自分、鏡の前でポーズをとってみたくなるんでしょうね。心の中の女性性に改めてスイッチが入るのかな?エレガントでありたいと、所作が綺麗になる。そこには見た目だけではなく、ギュギュっとウエストを締め上げるちょっとした拘束感、すこしの苦しさに心理的な作用があるのかなと思いますね。

床が抜けたら〇億円の借金・・・!?

大盛況だったパーティーイベントの様子。

━原宿でお店をスタートし、ご自身のイメージが形になっていき、すごく楽しそうに感じられますが、大変だったことは?

私はイメージ先行型というか、絵が思い浮かぶと、言葉や行動が追いつかなくなるんです。当時のスタッフのは大変だったんじゃないかと思います(笑)。

あるとき、2005年くらいでしたかね?
突如イベントをやろうと思い立ったんです。新宿にある「クラブハイツ」というボックス席が600席ぐらいある大きなグランドキャバレーがあって、その会場の巨大なシャンデリアを見たときに「こんな素敵な場所で、私のパーティーを絶対にやりたい!」と思ってしまったんですね。イベント運営の知識もないままやってしまったので、とてもとても大変でした。

たとえば、イメージのままに作った櫓がいざ会場に持っていったら搬入口に入らない!とか。結局一回バラしてもらってから搬入して、会場で再度組み立てました。

イベント当日は、チケットが200枚しか売れていないのに、初回のイベントで600人近く集まってしまった。その200人が皆友だちを連れてきてくれたり、出演者さんのファンの方、わたしが通っていたバーの方々がお客さんを束ねてきてくれたり。するとビルの管理人からクレームの電話がきて、「何やらドレスを着た人たちがビルの下にたくさん並んでいる、今すぐどうにかしてくれ」って。私がコルセットを締めたドレス姿のまま自ら外に出て、必死に交通整理をしました(笑)。

2回目のイベントの際、山本リンダさん、野宮真貴さん、杉本彩さんががシークレットゲストで出演くださり最高潮に盛り上がりました。老朽化が進んでいるビルだったから、その中央に人が集中し音楽にあわせてジャンプをしだして。するとまたビルの管理会社から電話がかかってきて、「床が抜けそうだから真ん中にいる人たちをどけてください!!」と。

中央に集まらないようにアナウンスしても、何百人もいるイベントの最中なので声も届かない。当時、損害保険に入るなどということも知らずにやってしまって、しかもイベントの場所を借りる際に、何かあったら弁償するというサインをしてしまっていたので、新宿歌舞伎町のグランドキャバレー、床が抜けたら何億円借金をするんだ…?と。そう思うと、パーティーの様子が急に色あせてモノクロームに見えてきました(笑)。結果的に何もなかったので安心しましたが、電話が来たときは心臓が口から出そうなほどビックリしました(笑)。

キャプション)ミラノさん主催のパーティーイベントの評判は瞬く間に広がり、雑誌やメディアでも注目された。

そのイベントは4年間やりました。最終的には皆さまのお陰で1000人集まりました。

毎回緊張とプレッシャーがすごく大変でしたが出演者、友人、お客さまに助けてもらいながら何とかやり切ることができました。今となってはそのときの自分のパワーをすべて出し切ったから次に進めたかと思います。・・・体力がある若い頃にやっておいて良かったですね(笑)。

夢を叶え海外セレブも訪れた場所

━Baby Doll Tokyo原宿店とは、ミラノさんにとってどんな存在でしたか?

夢を叶えてくれた場所、かな。きっと私は、私自身が「緑川ミラノ」というキャラクターになりたかったのだと思います。思春期に彼にダサいと言われてから、ずっと自分の好きなファッションのことを中心に生きてきて、今こうやって取材に来ていただいたり、日本中で知られている大手さんとのコラボレーションでデザインしたり、テレビにも何度も出させていただいたり。

何より多くの仲間、同士に出会うことができました。

私自身が、Baby Doll Tokyoの「緑川ミラノ」に出会った。自分の空想の中で。その「緑川ミラノ」を自分でクリエーションしていきながら、私のコンプレックスだったり、承認欲求だったりといった想いがすべて満たされていった気がします。

本当にいろんなことがありましたが、初めの10年は忙しくて休みもほとんどありませんでした。睡眠時間を確保するため最高4日間お風呂に入ることを諦めました(笑)。ゴスロリ全盛期では全部で11店舗分の企画・仕入れも担当していました。

そしてBabyDollTokyoに訪れるお客様たちが個性派ぞろいで話題が尽きない(笑)。

気づいたらあれれ?20年経っていたといった感じですね。

その間には、いろいろな事件がありました。Baby Dollをオープンするときは、直前までお店を手伝ってくれるはずの人がいざとなったら来なくなってしまったり、オープニングパーティに来ると言ってくれていたたくさんの友人も、実際に来たのはたった数人。社交辞令という言葉が身に沁みました(笑)。また周りからも、「原宿にアダルトショップができた」言われたりして、とても悔しかったものです。

だからこそ、絶対にコルセットをファッションとして認めさせたい、かっこいいと納得させるコルセットを作るまで絶対やめない、と誓い決めたからここまで来られたのだと思います。

***

ミラノ氏の人生と共にあった、Baby Doll Tokyo原宿店の20年間。コロナ禍の影響や、ミラノさん自身のライフステージの変化とが重なり、2020年8月8日にクローズをすることを決めた。本インタビュー最終回となる次回は、日本橋で再スタートを切ったBaby Doll Tokyoについて、今後の展開や来年1月にリリースする新コレクションについてお届けする。

Baby Doll Tokyo(ベビードールトウキョウ)

美と退廃のセレクトショップとしてオーナーの緑川ミラノが2000年に原宿で開店。現在はオンラインを中心に「コルセット」「フェティッシュ・ファッション」や「ゴシック」スタイルをエッセンスに、「黒」を中心とした小物やウエア、大人の女性が日常からパーティーシーン、撮影まで、幅広く楽しめるアイテムを多数取り揃えています。

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