多くの国内工場との協力しながら、代表の平石さん、デザイナーの金山さんが共に見据える次なるブランドの挑戦とは?
祖母から教わった「もったいない」の心
━━ファストファッションで育ってきた世代にとっては特に、新鮮な驚きがありそうですね。そうした日本のものづくりへの思いというのは、昔から持たれていたのでしょうか。
平石:そうですね。私は生まれが千葉県の田舎の方で。田園地帯が広がっているようなところです、毎年夏と冬はそこで過ごしていました。戦時中に生まれた祖母は服飾の女学校に通っていたそうで、ひたすら服作りをしていた話なども聞いていました。そういう女性の昔からの活躍の場所を今でも大事にしたいな、という気持ちもあります。
平石:祖母はよく、「もったいない」って言うんです。お寿司に入っている、緑のバランまで取っておくような人なので(笑)。今ではものがあるのが当たり前で、何でもすぐ買えば良いと思いがちですが、祖母の時代には本当にものがなかったのだから、と。昔から大事にされてきた「あるものを大切に使う」という考えは大事にしたいな、と思いますね。
━━今、アパレル業界では特に「サステイナビリティ」や「SDGs」など言われる時代ですが、ものを大事に使うということはまず大事なことですね。
平石:世界の中でも、日本人はそういう文化を昔から持っていたはずなんですよね。「もったいない」という言葉は、日本特有の文化ですし。私の祖父母がぎりぎり戦争を経験した世代で、私も昔からそういう話をずっと聞かされていたので、もののありがたみや、そういった考えは根付いているのかもしれないです。
━━SDGsに関して、ブランドとして何か取り組んでいること、取り組んでいくことはありますか?
平石: BRING(ブリング)と提携して、ブラジャーのリサイクルに取り組んでいます。正直なところ、私たちにとっては何の利益もなくむしろ赤字なのですが、やることに意味があると思っているので、身を削ってでもやろうと。
平石:また、これはブランドとしてというより会社としてですが、女性の雇用をもっと増やしていきたいです。今はパソコン一つ、携帯一つあればできる仕事もあるので、学歴や障害の有無に関わらず、アルバイトでも正社員でも、女性を採用していきたいという思いはあります。
ご縁をつなぎ、文化を伝える
━━現在販売されているランジェリーは和柄の刺繍が特徴ですが、今後リリースされる新商品にも和柄のデザインが使用されていくのでしょうか?
金山:そうですね。現在Web上で予約販売を受け付けているメンズのボクサーパンツは来月発売の予定で、また、秋には再生(リサイクル)繊維を使用したブラレットや、ブランドとして初めてのタンガ(ショーツ)の発売を予定しています。これまでのシルクの商品ラインよりも少しカジュアルなラインになるかと思いますが、いずれも和柄は必ず取り入れています。
平石:エヌビジューのランジェリーには必ず和柄を取り入れているのですが、そうした和柄にある意味や、日本の伝統も伝えていきたいと考えています。
日本人でも、和柄の意味や名称までは知らないですよね。例えば、日本ではなぜ「松竹梅」と言われるのか。なぜ天皇陛下の紋章は「菊の花」なのか。
意外と知られていませんが、海外のハイブランドにも日本の和柄が使われていて、ルイ・ヴィトンの有名なダミエ柄は、日本の市松柄を元にしているそうです。
そうした普段何気なく目にしている和柄の意味を、ランジェリーと一緒に伝えていけたらなと思います。
私たちのブランドロゴの「七宝(しっぽう)つなぎ」には、ご縁が続いていくという意味があります。七つの宝、と書くのでとてもラグジュアリーなイメージもありますし、人と人との関わりを大切にという意味でロゴにしています。
挑戦の場は国内外に
━━海外展開の視点は、ブランドのビジョンとしても強く持たれているかと思います。今後どのように海外へアプローチされていくのでしょうか?
平石:現在は、JETROさんと契約して対海外企業へのWeb商談の機会を探っています。また、一つ目標として掲げていた、パリの「国際ランジェリー展」に、来年1月の参加を目指しています。ここで、和ランジェリーに対する海外の方々の反応を見ることができればと思っています。実は、国際ランジェリー展への参加に関してはとてもハードルが高いものだと思っていたので、エントリーのためにルックブックを用意したり、英語での文面も一生懸命練ったのちに送ったのですが・・・案外すんなりと返信が来て(笑)。1月の参加を目指して、準備を進めているところです。
国内でも、今回の松屋銀座さんへの出店を皮切りに、どんどん展開していけたらと思っています。
現在確定しているものでも、9月8日から渋谷スクランブルスクエアさんにて、10月に大阪の阪急梅田さんで期間限定のポップアップ、またイタリアの高級車メーカーのマセラティさんでの展示会などを予定しています。
高級ブランド車での展示会などは、ただランジェリーを販売するというわけではなく、ライフスタイルの提案や、訪れた女性が楽しめる空間を作りたいなと思っています。
━━海外展開も含め、オンラインというよりもリアルな場を今後も増やしていかれるのでしょうか?
平石:そうですね。もともとコロナ禍にスタートしたので、ECで頑張っていこうとしていたのですが、やはりものの良さというのは、実際に目で見て触れて、試着して分かるものですよね。また、ものだけでなく私たちの気持ちも一緒にお伝えたく、“おもてなし”の場を作りたいというのもあります。
日本の繊維産業とともに
━━以前の特殊メイクアーティスト×華道家さんとコラボしたビジュアルも、とても素敵でした。「日本文化」というテーマでは、いろいろなコラボの可能性がありそうですね。
平石:特殊メイク&造形アーティストのAmazing JIROさんとは、以前からの知り合いで。そこから華道家さんを紹介いただき実現しました。
金山:華道や茶道、お着物など、さまざまな日本文化に縁の深いアーティストさんやクリエイターさんとも、今後積極的にコラボを仕掛けていけたらと思っています。
ただランジェリーを売るというよりは、日本の文化を伝えながら、色々と面白いことをやっていきたいなと考えているところです。
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「日本の繊維産業とともに、和の文化や伝統を取り入れたランジェリーを、日本だけでなく世界に発信していきたい」――。最後にそう力強く語ってくれたN bijoux代表の平石さん。
日本の繊維業界が国内をベースにものづくりをするには、コストの問題などから、誰でも簡単に真似できるものではない。それでも、「小さなブランドだからできる強みも活かして」挑戦をしていきたいと語る姿からは、そう遠くない未来に、世界に通用するブランドへと飛躍していくことを予感させてくれた。