後編では、ランジェリーデザイナーとしてデザインに込めた思いや、ものづくりへのこだわりについて。アルクァーテの魅力が詰まった濃い時間を、読者の皆様とシェアしたい。
「自分っていいじゃん」と思ってもらえるランジェリーを
━━あらためて、アルクァーテというブランドに込めた思いを聞かせてください。
ランジェリーそのものが主役ではなく、身につけた方自身が主役になるようなランジェリーを、という気持ちがあります。
ただきれいだから眺めているのではなく、それを身につけたときに「あ、なんか自分っていいじゃん」と思ってもらえるように。
女性はそれぞれきれいな形を持っている、女性であること自体が美しいという前提で作っています。一般的に理想とされている体型はあるとは思いますが、そういった型に無理やり当てはめるのではなく、今ある自分の魅力を引き立てるようなランジェリーのデザインというのをいつも意識して作っています。
例えばバストのサイズが小さい、あるいは大きすぎるなどサイズを気にされる方はいると思うのですが、“今ある自分”に自信を持って欲しいな、と思いますね。
━━下着に対して、自身のコンプレックスとセットで考えてしまうようなこともあるのかな、と思います。
そうですよね。なので、コンプレックスを隠すためのものではなく、“自分の魅力を見つけるためのもの”としてランジェリーがある方がすごく幸せかな、と思います。
展示会などで直接お客様とお会いしたり、フィッティングをさせてもらったりする際に、「すごく素敵だけど、私には合わないんじゃないかな」と不安な気持ちもありつつ試着していただくお客様もいるのですが、実際につけてみると「意外と良かった」と。自分って良いかも、となりましたと言っていただけます。
先入観で「自分にはこれは似合わないかも」とか思っている女性が、日本には多いような気がしています。また、自分の感情を後回しにしてしまっている方も多いんじゃないかな、と、ブランドを始めてからすごく感じることがあります。
例えば、SサイズとMサイズを試着していただいて、「どちらが合いますか?」となると、その「合う」という気持ちが分からない。自分の心地よさで選んで欲しいのですが、どちらが心地良いかも分からない方もいたりする。あるいは、好きな下着の色も、赤と青があってもどちらを選んでいいか分からない。自分の心地よさを後回しにして過ごしてきたからなのかな?などと、心理的な部分も色々考えてしまったりします。
━━なぜなのでしょうね、「正解」を探してしまっているから、なんですかね。
そういうのもあるかもしれません。今は、メディアで「理想とされる女性像」だったり、これが正解、これが良いよね、といった情報がどこにでも転がっている。そういう理想像が作られすぎてしまって、それに合わない自分とのギャップで悩んでしまう方もいるのかな。だけど、本当はその人自身の魅力は別のところにありますよね。
ランジェリーの楽しみかたは、“アラカルト”で
━━アルクァーテのランジェリーはすべてノンワイヤーだと思いますが、そこにもこだわりがあるのでしょうか?
先ほど少しお話ししたところでもあるのですが、理想とするサイズや元ある型、C、D…といったものに自分の形を当てはめるというのは結構大変だなと思っていて。
もちろん、場面によって使い分けてもらえたら良いと思っています。補正力の高いものはいろんなブランドから出ているので、ドレスアップをしたりバストメイクをちゃんとしないといけない時にはそういったものを。アルクァーテのランジェリーは、リラックスしたり、本来の女性の柔らかさや、ナチュラルな感じを楽しみたいときに使っていただけたらと思っています。
━━洋服と同じで、下着もシーンで違うものを、ということですね。
そうですね。毎日このブランドのランジェリーだけをというよりも、自分の好きなように楽しんでもらいたい。アルクァーテというブランド名には、「アラカルト」というワードも入っているのですが、「自分が好きなとき・好きなように・好きなだけ」というように、ランジェリーも楽しんでもらえたら、といった気持ちでこの言葉を入れました。
ブランド名には「アンティーク」「アラカルト」「カルテット」の3つのワードが入っています。
「アンティーク」は、時代が流れていっても人に大切にされたり、そこにまた価値がある、といった意味合いです。「カルテット」は、自分が好きなものをアラカルトで選んでいったものが、あなただけのハーモニー、魅力になりますよ、という意味で、このブランド名をつけました。
━━各コレクションのデザインのインスピレーションは、どんなふうに発想しているのですか?
普段はあまり語らないのですが、ストーリーを細かく作り込んでいます。1つの物語、短編小説を書けそうなぐらい、いろんなイメージを映像にするような感じで。それを撮影や、関わってくれる方に文章などで渡したりします。
なので、都度商品のイメージは変わってきます。主人公はどんな人で、背景はどんなところか、流れている音楽はどのような感じか、などシチュエーションは頭の中にあります。
そこで主人公が着ているランジェリーはどんな感じかな、とイメージして作っています。
━━日本におけるフェミニズムや、そういう流れを意識することはありますか?
日本だと、ランジェリー=セクシーさというより、ちょっといやらしい感じで捉えられたりします。Tバックもそうですが、いやらしさを含んだセクシーさといったように。だけど、そうじゃない、という気持ちはすごく強いですね。
セクシーさや色っぽさというのは、上品さがないと成り立たないと思うんです。一方で、いやらしさというのはそれとは逆のところにある。なので私の作るランジェリーは、セクシーだけど上品さのあるものというのは意識しながらデザインしています。
素材と着心地へのこだわり
━━他ブランドと差別化されている部分などはありますか?
ブランドの価値として、素材にはこだわっています。安っぽいものは作らない、と決めているので国内での縫製にこだわっているのもそのためです。
あまり、他のランジェリーブランドさんをチェックしたりはしないようにしています。どこかでそれが記憶に残ってしまうよりも、他にはない色合いやデザインを作れることもあるのかなと思います。
あとはパターンメイキングやサンプル作りも自分で行っているので、身体にフィットしたものを作ることができる。以前にボディを作ったときなども、バレエの衣装をベースにして作ったりしたので、つけて下さった方が「フィット感がすごい」と言って下さったり。
着てもらったときに感じるもの、着心地が良いと思ってもらえることが、リピーターさんにもつながっているのかなと。
サンプルは何度も試しては、繰り返し作っています。それを工場にお任せしてしまうところだとそこまで細かい修正はできないかと思うので、そこは強みですね。
━━ブランドとしてスタートしてから6年、変わったこと、逆に変わらない部分はありますか?
ブランドとして成り立たせられるようになってきたこと、自分の知識や経験値も上がったので、やりたいこと、表現の幅も広がった部分はあります。
変わらずに好きなデザインを出していこうとは思っていますが、今まではアパレルと同じように年に2回は展示会をやろうと決めており、春夏・秋冬で新作を出していたのですが、コロナ禍で展示会をやらなくなったということもあり、これからは好きなタイミングで出していくという形に変えていこうかなと思っています。もう少し気軽に、軽やかに。
服とランジェリーって、まったく別物として捉えられやすいのですが、私にとっては服を選ぶならランジェリーも選ぶという、同じ感覚です。よりファッションに近い感じ、日常的、服を着るのと同じ感覚でランジェリーを選んでもらいたいので、ファッション性のあるランジェリーを作っていきたいなと思います。
━━新作はどのようなものになりそうですか?
まだ準備中ではあるのですが、ウェア系のアイテムを少し増やそうかな、と思っています。
近所だったらそのまま外に出られるような、さらっと羽織れるようなものや、キャミソールやスリップ、下着以外にもおうちで楽しめるランジェリーを考えています。
***
コロナ禍で変化した日常。気を張りがちな毎日にこそ、少しリラックスして、柔らかな女性の魅力を惹きたてる上質なランジェリーを身に纏う。緑さんとの対話を通して、普段は「男らしい」と言われてしまうような筆者でさえそんな気持ちにさせられる。
リピーターさんも多いというアルクァーテのランジェリー。身につけると「なんかいいかも」と思わせてしまう背景には、すべての女性をふわりと肯定する緑さんの思いとこだわりが詰まっている。